1. はじめに:世界に数軒の「リザーブ」を求めて
今回は、宿泊したことのないニセコに行ってみようと思い、リッツカールトンリザーブ - 東山を訪れた。
コンセプトムービーで、現場の雰囲気をぜひお伝えしたい。
Niseko, Hokkaido Hotel | Higashiyama Niseko Village, a Ritz-Carlton Reserve
Higashiyama Niseko Village, a Ritz-Carlton Reserve is a luxur
www.ritzcarlton.com
実は、訪れる直前まで「リザーブ」が何を意味するのか、その正確な定義を深く調べていたわけではなかった。現地に到着し、受付担当者の方に聞いたところ、リザーブというブランドは、同じラインではあるものの「秘境の地」のような場所に作られるのが特徴なのだという。
驚くべきことに、日本国内ではこのニセコの一軒しか存在しないらしい。世界的に見ても希少で、特にタイのリザーブが有名だそうだ。
調べてみると、確かにイメージ画像にはタイの物件が一番使われていたので、今度はタイにも行ってみたいと考えている。

今回の旅の目的は、2026年6月28日(日)の函館マラソン(フルマラソン)に出場することと、北海道での少しの仕事である。途中でニセコに立ち寄り、そこから函館へ抜けるという流れの中で、まずは1日目に感じたことをざっくりと記録しておきたい。
2. ニセコの土地の印象と周辺のリゾート環境
今回、初めてニセコを訪れた。北海道ならではの広大な土地で、すぐ近くには急な斜面が切り立つ山が迫っており、ものすごく自然を感じる場所だった。あいにくの天気で山がはっきりと見えない時間もあったが、「なるほど、こういうところだから人気があるんだな」と、その理由がなんとなく分かった気がする。

事前にはそれほど詳しく調べていなかったのだが、周囲にはリゾートホテルがたくさん集まっているエリアだった。ニセコビレッジのようなエリアに、パークハイアットやヒルトン、ウェスティンなどの高級ホテルがいくつも点在している。そのうちの一つとして、東山という地名を冠した「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブ」があった。

実際に到着して見た建物の第一印象は、とても綺麗で落ち着いた建物だなというものだった。ただ、これまで経験してきた沖縄や東京にあるような、いわゆる「豪華絢爛で圧倒的な高級感」を前面に押し出したスタイルとは少し違う。どちらかといえば、非常にこじんまりとした、品格のある綺麗な佇まいという印象を強く受けた。
3. チェックインの対応:20秒の間に考えるルール設計
15時頃にチェックインしたのだが、経営側の視点で「どういうマニュアルやルールがあれば、顧客に残念な思いをさせず満足度を高められるか」を考えさせられる体験があった。
今回はレンタカーで来たのだが、私がイメージしていたリッツであれば、車を停める前に気づいて担当者が来て、荷物を下ろし、受付へ案内してくれるものだと思っていた。駐車場も100メートルほど離れているので、バレーサービスがあるかと期待していた。
しかし、車を停めて20秒ほど待っても、すぐに担当者が出てこなかった。20秒待って来ないなら、そういったサービスはないのかなと判断し、結局自分で駐車場に車を停めに行った。その後、キャリーケースを持って入り口に向かっていたところ、スタッフの方も気づいたのか、入り口から少しこちら側へと寄ってきて荷物を引き取ってくれた。
15時チェックインはデフォルトなので、その時間に車が来ることは分かっていたはず。建物の構造上の問題か、受け入れ態勢の問題かは分からないが、最初のスムーズさという意味では"少しもったいない"と感じた。
受付では、バーカウンターの方がすぐにウェルカムドリンクを持ってきてくれた。

チェックイン担当の方も非常に話しやすく、丁寧に対応していただいた。ただ、先日宿泊した「ホテル・ザ・三井」の帝国ホテル出身の担当者などと比較すると、少しぎこちなさが目立った。年齢が若い方だったので、一生謙命覚えてきたことを一生懸命こなしている、という印象。
決して悪い印象ではないし、笑顔でこちらの質問にもたくさん答えてくださったので、無事にチェックインを済ませることができた。
部屋自体は非常に綺麗で、入った瞬間に良い環境だなと分かるほど満足度が高い。ロビー、レストラン、バー、 そして温泉など、どこを切り取っても写真に収めたくなるような楽しい空間がたくさんあった。




4. ドライヤーのチョイスとインクルードの仕組み
いつものリッツ・カールトンと違うなと感じた点がいくつかあった。
まずドライヤーについて。よくみるレプロナイザーが置かれているのかと思ったが、今回はダイソンだった。個人的に、高級ホテルがレプロナイザーを選択する意味がよく分かっていなかった。高級であることは確かだが、正直求めていない。なぜなら日常で使うことの少ないブランドだし、どこを押せば風が出るのか考えないと分からないというUXの悪さだ。その点、金額は安くてもパナソニックやダイソンは使い勝手が良く、すぐわかる。質感も非常に良いので、このダイソンというチョイスは素敵だなと感じた。
次に、ドリンクがインクルードされている点も通常とは異なっていた。冷蔵庫内のドリンクは通常だと追加料金がかかるが、ここはあらかじめ含まれている。内容も、北海道限定の私の大好きなビールである「サッポロクラシック」や、地元の地酒など、北海道ならではのラインナップで非常に嬉しかった。インルームダイニングを利用しながら自由にお酒を飲めるのは、とてもありがたい仕組みだと感じた。
また、温泉があるのも大きな魅力だった。いわゆる「スパ」という雰囲気ではなく、しっかりとした露天風呂を備えた綺麗な温泉だった。

今回は平日に宿泊したこともあってか、利用客も少なく、ほぼ貸し切り状態で楽しむことができた。あいにくの天気で目の前の景色こそあまり見えなかったが、逆に雨だからこそ味わえる「屋根から滴る雨の情緒」が素晴らしく、それはそれで良い雰囲気だった。また天気の良い日にもぜひ訪れたいと思える空間だった。
5. バーでの体験と、経営視点での人材育成・ルール設計
少し残念だったのはホテルのバーでの体験だった。夜、写真や映像の制作も兼ねて滞在しているので、せっかくならとオリジナルカクテルの「トマトのマティーニ」を頼んだ。トマトはこの土地の名産品でもあるので期待していた。

まず、バーカウンターのスタッフが英語メインの方で、日本語があまり通じないようだった。曜日的にも他にお客さんがいなかったので、一時的にメニューを把握している方が立っていたのかもしれない。優しい方ではあったのだが、オペレーションに不慣れな印象を受けた。最初に入店した際、こちらから声をかけるまでおしぼりが出てこなかったり、マティーニの作り方が非常にたどたどしかったりと、経験の浅さが目についた。
空間代や添えものを含めた金額だということは理解しているが、価格に対して肝心の味わいやクオリティが極めて普通で、価値が微妙だと感じてしまった。新しさも感じられず、これではリピートするお客さんは少ないのではないだろうか。私も次に来たときは、もうこのバーは利用しないと思う。
1日目として総じて思ったのは、やはり価格が若干低い分、採用コストも上げづらいので、リッツ・カールトン東京や沖縄と同じクオリティで人材を採用するのはなかなか難しいんだろうなということだ。人材のレベルは金額に比例する部分もあるので、どう教育していけばいいのかは経営としても悩ましいポイントだと思う。
私は宿泊事業者向けに「ネパール人の方を採用しませんか」という提案をすることもある。その中では「ホスピタリティ精神が高い」「人件費が抑えられる」「ハングリー精神を持って頑張ってくれる」といった強みを紹介しているが、とはいえ結局は「人に依存する」という事実は変わらない。
例えばバーカウンターでの振る舞いだが、これは本人の意識次第だと思う。
バーコンテストのランキング上位レベルにはセンスや深い経験が必要かもしれないが、限られたメニューの中で自分が何を作るのかを把握し、それなりの金額をいただいて提供するわけだから、立ち振る舞いはもっと突き詰められるはずだ。
特にお客さんの目には、作る過程がすべて見えている。写真や映像を撮る人間もいるし、その一杯が特別であることを提供するためには、言語や作るプロセスの仕草一つひとつに至るまで、意識次第で変えられる部分が大きい。
今回は雰囲気で察して聞かなかったが、私はいつも「おすすめは何ですか」と尋ねるようにしている。ただ、今回は聞いたらきっと困るだろうなと思ってやめた。ワインやシャンパンを飲んでもよかったのだが、おそらく説明もなくただ注がれるだけで、質問しても「少々お待ちください」と詳しい人を呼びに行くだけだろうなと想像できたからだ。
自分が経営だったら、どうすれば従業員の方が最高のサービスをしてくれるだろうか。ある程度の金額でカクテルを出す立場を任せるオーナー側として、スタッフにどう頼み、どう研修し、どういうルール設計をしていけばいいのか。そこを突き詰めないと、やはり顧客満足度は上がらないなと痛感した。
6.朝食とチェックアウト
今回は朝食付きプランであった。こちらもよくあるビュッフェという感じだった。あまり力は入れていないかな…?という印象。


これも、どこまでコストをかけるのか、どの期間でイニシャルコストを回収するのかという経営方針に基づいてクオリティが変わってくるので、どこに基準を設定するのが顧客満足度が高くなるのかを考えさせられた。周辺にあまり飲食店はないので、もし次回来たらまた朝食は一緒につけると思うが、メインの楽しみになるものではなさそうかなという印象。
7.まとめ
これまで宿泊施設を回ってきたのもあり、業界における標準や支払い単価に対する満足度というものがどういう風に形成されるのか、その肌感が分かってきたなと感じた。
今回に関しては残念だったポイントも一定まとめているものの、一晩の宿泊単価としては5万円程度であったことを考慮すると、「ちょっといいホテル」くらいのレンジ。そこに対してリッツ・カールトンと同じようなクオリティを求めること自体、そもそも価格帯が見合っていないため、今回の宿泊としての満足度は別に低くはないのかな。
ただ、ここまで来ると改めて思うが、あらゆるサービス、ひいては資本主義社会におけるすべての経済活動というのは、前提となる「期待値」に対して「実際の体験」がどれだけ上回ったか、その差分が嬉しさや価値に繋がる。
つまり、以下の図式における満足度をいかに最大化できるかが非常に重要。
満足度 = 体験価値 - 期待値
これには、期待値を上げすぎても体験時の満足度が下がってしまう、かといって期待値をある程度持たせないとそもそも顧客が来てくれないというジレンマがある。その点をコントロールしながら事業運営していかなきゃいけないんだろうな、と感じた良い滞在だった。

